LIFE

「これでいいのだ」

壁もドアも、まるで家具のような丁寧な細工。内装には全体的にシベリアンパインが使われている。DIY中にやすりを掛けると、脳を突き抜けるようなスパイシーで爽やかな、まるで軽やかなジンの様な香りがした。

中古で購入したこの家は汚かった。今や大分手入れされ、清潔感が出てきたが、それでもまだ、手が回っていないところがある。取り払ったお風呂場は空洞となり、断熱材が剥き出しになっている。

シベリア杉は杉と言われているが、実際にはパイン(松)材だということだ。今では環境への負荷が大きいことから伐採を禁止されているタイガの森のシベリア杉と言われる松材が、過去には、建材として日本へも渡ってきていた。それが使われている。

クラシカルなデザインは、カントリーし過ぎている訳ではなく、飽きが来ないであろうと思われる。日々、磨いているこの家が、だんだん好きになっている。

しかし、DIYは手がかかる。修繕を終えてから暮らし始めることが出来なかったため、日々、手を加えながら生活していると、いつ終わるかわからないこの暮し方にうんざりする。きっと本当は、DIYなんか好きじゃないんだと思う。そして、新築で、思うように注文して、プロに家を建ててもらうことができれば、なんて素敵なんだろうと、誰と言うことなく、その様な状況を羨む。

「今はもう、手に入れることが出来ない建材なんだよ。もうこんな家は建てられない。とても価値ある家だと思う。」この家を建てた方から言われた言葉がよみがえる。

裏口を出たところに、木製の棚やベンチが山のように積まれ、固定するために長いビスが打ち込まれていた。グワングワン手で、いや全身で押し、キックした。のこぎりも使った。外は青空。-4℃まで気温が上がった森の中で吠えた。棚とベンチが消えたら、窓から林が見えるようになった。

自分で修繕したから、このシベリアの木の匂いを知った。匂いと一緒に床にサンダーをかけたときの埃っぽさと喉の痛みを知った。

これからも自分と違う状況を羨むことがあるかもしれない。けれど、クラシカルで、誰が欲しがっても、もう作ることができない、この家で、今暮らせることを喜ばずして、幸せでいられる訳がない。

本当に、本当に、人は自分の中にある幸せに気づくのが苦手で、自分がもっていないものに執着し、過去の出来事に囚われ、他人を羨み、自分がもっているもののよさや価値に気付けず、幸せが見えなくなっていることが多いのではないかと思う。

眼鏡のレンズには、気付かぬうちにほこりがつき、皮脂がつき、人は曇ったレンズを通して物を見るようになる。大事なものが見えなくならないように、レンズを磨いていけるといいなと思う。

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